政府は、2022年12月16日にも、国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画の安保関連3文書の閣議決定を行おうとしています。
報道によれば、この3文書の中で、相手国のミサイル発射拠点などを先制的自衛の名の下に攻撃を行う反撃能力すなわち敵基地攻撃能力を保有することや、防衛力強化のための年間予算を、2027年度にGDP比2%に達するようにすることなどが盛り込まれているということです。
日本国憲法は、国民主権、基本的人権の尊重、恒久平和主義の3つの基本原理を掲げ、憲法9条は戦争の放棄と戦力の不保持を規定しています。国際協調主義の下、対話による国防、外交による安全保障を基本軸としてきました。自衛隊についても、政府は専守防衛のため、必要最低限度の実力を保有するものと説明してきました。
2014年7月1日の閣議決定による集団的自衛権の行使容認、2015年9月19日の安保関連法・戦争法の強行採決で、自衛隊の専守防衛は大きく揺らいできました。今回の安保関連3文書の改定は、それをさらに押し進める悪辣な解釈改憲の強行です。
敵基地攻撃能力の保有は、日本の国土防衛に百害あって一利なしです。
今回の安保関連3文書の中で、中華人民共和国(中国)を名指しして「深刻な懸念事項」があるとし、「これまでにない最大の戦略的な挑戦」であると位置づけ、関係国による対応が必要だとしています。そうすると、敵基地攻撃能力の対象となる「仮想敵国」は中国ということになるのでしょうか。あるいは、ミサイル発射を続ける朝鮮民主主義人民共和国(共和国)なのでしょうか。
いずれにしても、敵基地攻撃能力を真に実効的なものとするためには、最初の一撃で、仮想敵国のすべての軍事基地や政権中枢を壊滅的な状況にしなければなりません。そうでなければ、直ちに日本に対する攻撃すなわち戦争が始まるからです。
具体的に考えてみれば見るほど、敵基地攻撃能力が自衛に役立つというのは、荒唐無稽な夢物語と言わなければなりません。中国の広大な領土のすべてを対象とするミサイル配備が可能なのでしょうか。共和国のすべての軍事基地を把握することは可能なのでしょうか。洋上にいる艦船からのミサイル攻撃の可能性に目を向ければ、動かない軍事基地よりも移動しつづける軍事基地の補足は遥かに困難であり、事実上不可能といってよいでしょう。
そのために必要な防衛費は、莫大なものになります。2023年度から2027年度の5年間の防衛費は43兆円程度とされています。これについて、増税による負担が報道されています。東日本大震災の復興予算の財源である復興税からの転用にまで言及する始末です。まさに血眼です。これまで、教育や社会保障の拡充をどれほど求めてきても、これほど血眼になって財源を作り出したことはありません。
軍隊は国民を守らない。
何度も語られてきたこの言葉が、核心をついています。軍隊が守るものは国家すなわち権力者であって、国民を守るためのものではありません。国民の生活や未来を守るためではなく、無意味で不必要な軍拡のための増税がなされようとしています。
いま、政府は大きく道を踏み外そうとしています。立ち返るべきは日本国憲法の理念です。日本国憲法は、「後戻りのための黄金の架け橋」です。
すばる法律事務所は、平和を愛する多くの皆さんとともに、日本国憲法の理念の実現のために声を上げたいと思います。