判例紹介

奨学金問題 保証人への過大請求是正、過払い分返還へ

奨学金返済、過払い2千人に10億円返金へ 日本学生支援機構

本当に驚きのニュースが飛び込んできました。

奨学金問題対策全国会議幹事を名乗るのが申し訳ないくらいに、最近は奨学金問題実務を取り扱っていないのですが、古巣の北海道合同法律事務所で本当に精力的にこの問題に取り組んでいた同期の橋本祐樹先生と、西博和法律事務所西博和先生が勝ち取った判決が、日本学生支援機構(以下「機構」といいます。)の対応を大きく動かしました。

機構の奨学金は次のような種類になっています。

  • 給付奨学金
  • 貸与奨学金
    • 第1種奨学金(無利子貸与)
    • 第2種奨学金(有利子貸与・きぼう21プラン)

貸与奨学金を受ける際には、機構への返済について保証を付けることを求められます。保証は次の二種類です。

  • 機関保証(毎月の奨学金から保証料を引かれる)
  • 人的保証(連帯保証人と保証人各1名をつける)

連帯保証人は、奨学金を借りる学生本人(奨学生・主債務者)と同じ責任を持たなければならないので、その借入額全体について返済の責任を負うことになります。

他方、保証人については、「分別の利益」といって、保証人が複数いる場合には、保証人の人数で案分した金額だけを負担すればよいとされています(民法465条、427条)。

  • (数人の保証人がある場合)
    第456条 数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第四百二十七条の規定を適用する。
  • (分割債権及び分割債務)
    第427条 数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。

機構の奨学金における人的保証の場合には、連帯保証人1名、保証人1名ですから、保証人が負担すべき金額は、2分の1となるはずです。

しかし、機構は、これまで保証人にも全額返済するよう請求していたのです。今回の事件は、この請求が分別の利益を侵害しており、保証人が2分の1を超えて支払った金額について、法律上受け取る理由のないもの(不当利得)として返還を求めて裁判をしていたのです。

機構は、札幌地裁で負け、札幌高裁でも負け、最高裁への上告を断念して、原告に受け取りすぎていた分を返還することとしたようです(機構HP;札幌高等裁判所判決を踏まえた今後の保証人への対応について)。そして、それにとどまらず、原告と同様に払いすぎた元保証人にも返金するとのことです。これは、非常に画期的なことだと思います。

奨学金問題是正の大きな一歩だと思います。橋本先生、西先生の頑張りはもとよりですが、勇気をもって声を上げた原告の方々に心から敬意を表したいと思います。