2016年11月30日に提訴した、陸上自衛隊南スーダンPKO派遣差止め訴訟の判決が、昨日、2022年3月8日にありました。
私は、この訴訟の弁護団事務局長です。札幌の弁護団だけではなく、イラク派兵差止訴訟を戦った全国の弁護団の先生方と一緒に、札幌地裁で弁論を重ねてきました。
判決を受けての原告・弁護団声明は以下の通りです。
陸上自衛隊南スーダンPKO派遣差止め訴訟地裁判決を受けて
本日、札幌地方裁判所民事第1部(谷口哲也裁判長)は、陸上自衛隊南スーダンPKO派遣差止め訴訟において、陸上自衛隊員の母である原告・平和子さんの訴えを退けた。
本判決は、平和的生存権の具体的権利性一般について、憲法が、平和主義及び基本的人権の尊重を重要な理念であると位置付け、平和のうちに生存することと国民の基本的人権が保障されることとは密接な関連性を有するとしながらも、「平和」という概念が、国民各自の思想、信条、世界観、歴史観等によって多義的に解釈され得るものであり、かつ、それを達成し確保するための手段や方法も、複雑に変化する国際情勢に応じて多種多様なものがあり得ることに照らすと、憲法の前文から直ちに平和的生存権が具体的な権利として保障されているものと解することはできず、憲法9条や、13条を含む第3章の各規定に照らしても、平和的生存権が一般的にみて具体的な権利であり、国家賠償法上も保護された権利利益であることはできないといって、その具体的権利性を否定した。
加えて、原告の具体的な権利内容についても、自衛隊員の家族として置かれた難しい立場については理解できるとしながらも、原告の感じる不安はなお一般的な不安の域を出るものではないとして、権利侵害・法益侵害を否定した。その結果、その余の点について検討するまでもないとして、請求を棄却した。
本判決は、日本で初めて紛争地域にPKO部隊を派遣したという重大な事実を全く無視して、形式論で判断を示した不誠実な不当判決というほかない。判決の理由中では、原告に生じた具体的な精神疾患を軽視し、その原因についての判断をあえて避けたと言わざるを得ない。自衛官と家族とは別人格であるという点を強調し、自衛官に被害が生じていない以上、家族の不安は単に不安でしかないとされている。判決の理由を突き詰めれば、自衛官に犠牲が生じなければ、家族は権利侵害を主張することが許されないということになる。
また、形式論に終始した結果、南スーダンへの派遣の違憲性については全く判断が示されていない。この訴訟では、原告はPKO派遣が憲法に違反していると主張を展開した。原告は、国に対し、繰り返し国家として正当な行為をしているというのであれば、正面からそれに答えるべきだと、国に対して明確な主張を求めたが、不都合な事実については口をつぐんだままであった。本判決は、かかる国を救済することで、主権者からの憲法違反の主張を封殺したものといえる。憲法の番人を自認し、法の支配を貫徹するための司法機関が自らの責任を放棄したものというほかない。
原告・弁護団は、国際協力の美名を利用した軍事行動を明確に拒絶する。国家の憲法違反行為を是正するために、高等裁判所において新たな判断を求める意向である。
2022年 3月 8日
陸上自衛隊南スーダンPKO派遣差止め訴訟 原告 平和子
陸上自衛隊南スーダンPKO派遣差止め訴訟 弁護団